夢か現か
埼玉県地区予選が始まってから数週間。
ここ私立華武高校野球部も、当然の事ながら順調に勝ち上がっていた。
このまま優勝に一気に向かう事を、疑うものは少ない。
そんな頃、華武校内ではあるトラブルが起こっていた。
「独民さん…今なんつったんすか?」
「お、落ち着けミヤ!」
「邪魔したらそのへーぼんヅラに傷遺して迫力のある印象つけてやんぜ?
スミレちゃん?」
嫌な脅しかたをしながら華武高1年、御柳芭唐は先輩への脅しを再開した。
「さ、吐いてもらいましょうか?」
「だ、だから別にたいした事じゃ…!」
「何をしてるんだ。穏やかじゃないな御柳。」
「先輩脅しはよくなさ気だぞ。ミヤ(-.-;)b」
「朱牡丹先輩、菊尼先輩!こいつなんとかして下さいよ〜!」
少なくとも現在脅されている独民(2軍)より頼りになることは間違いない1軍の二人に墨蓮は助けを求める。
だが、振り返る御柳の顔を見た二人は。
正直に関わりあいになるもんじゃないなと思った。
「おわ〜〜いつもより一段と目つき悪気〜〜(・O・;)」
「……聞きたくはないが何があった…?」
御柳は呑気な顔で(少なくとも御柳にはそう見える)自分に話しかける先輩二人に、
苛苛とした気持ちのまま言葉を吐いた。
「…屑桐さんが…。」
「屑桐?屑桐がどうかしたのか?」
「屑桐さんが、オレの天国とデートしてるのを見たっつったんすよ!
この独民さんが!!」
そう。御柳が怒っているのは。
自分の可愛い可愛い可愛い×∞恋人、猿野天国が。
御柳が所属する華武高校野球部主将である屑桐無涯と街中で歩いているのを、
2軍の独民が見かけたといっていたのを聞いたからだ。
御柳の可愛い恋人は、愛らしい容貌と元気で前向きで、なによりも強い意志を持つ。
華武高校内でも、魅了された人間は多い。
それほどの人気者で。
常なら人にここまで執着することなど考えられなかった御柳も、一試合で彼に魅了された。
そして数ヶ月に及ぶアプローチの末に、恋人の座を獲得したのだ。
それなのに。
「え?」
「な〜んだ、そのこと気(・△・)?」
菊尼は驚いたが、朱牡丹は知っているかのように答えた。
その反応に、今度は朱牡丹につっかかる。
「そのことって…何か知ってるんすか?!朱牡丹センパイ!?
ってかアンタ屑桐さんがオレの天国をかどわかしてるってのに黙って…」
「やかましい!」
ガゴッ
小気味の…正直あまりよくない音とともに現れたのは噂の人物。
主将の屑桐無涯。それと後ろに同じ1軍の久ボウ白春だった。
「休憩はもう終わりだというのに何を騒いでいる。 周りに迷惑だ。」
「…だからって金属バットで殴るのもどうかとは思うングけど…
まあミヤだからいいべな。」
勝手に納得されて納得がいくはずないのは殴られた御柳。
大体自分が騒いでいる原因は、屑桐にあるのだ。
それでなおかつ死にそうな道具で殴られて、理不尽もいいところである。
だからしっかり反論した。
「い…っっいいわけないだろーが!!下手したら死ぬっしょ?!
大体!屑桐さんが原因じゃねえか…!!」
「オレが原因だと?何の話だ?」
普段から直球極まりない屑桐の態度は今回も直球で。
御柳の苛立ちを十二分に膨れ上がらせる。
「あんたが!オレの天国と出かけてたって聞いたからだよ!
コーハイの恋人勝手に持っていくってなどういう了見なんすか!?」
激昂する御柳に一瞬驚いた屑桐だったが。
すぐに冷静さを取り戻すと。
「ああ、一昨日のことだな?」
「な…!」
しれっと浮気を肯定された方は、面食らう。
「なに、しれっと肯定しちゃってくれてるんですか!」
「事実だからな。
一昨日の日曜日に猿野とは確かに会ったし、共に買い物もした。
オレは楽しかったぞ?」
「く…屑桐さん…。(・▽・;)」
「……無意識にか意識的にかはわかんねえべが、
火に油注ぎまくりングよ…。」
「く…屑桐さん…アンタって人は…。」
怒りに燃える御柳。
その時。
「こーんにーちはーっ。誰かいるっすかー??」
可愛い可愛い可愛い×∞声が響いた。
。
噂の主、猿野天国だった。
程なくグラウンドに姿を現した天国は、どうやら揉め事が起こっているのを察した。
「あれ?今度はこいつ何やらかしたんですか?」
最初から原因が分かっているような物言いに少々沈没しつつも。
御柳は天国が来たことを喜んだ。
「あ、あま…。」
「よく来たな、猿野。約束の時間にはまだ早いはずだが?」
「あ、はい。」
しかし割って入られた。
しかもかなり聞き捨てならない内容であった。
「く、屑桐さん?!何でアンタ…。」
あせる御柳に、屑桐は冷静そのものだった。
「難しい話ではない、今日オレは猿野と約束をしていた。
それだけだが?」
「あ、あまくにぃいっ!!マジか?!嘘っしょ?!
嘘に決まってるよな!!」
しかし恋人の言葉は無情だった。
「んにゃ。約束してたぜ?屑桐さんと。」
さらっと悪気なしに言う。
その言葉に御柳は何ともいえない顔をした。
「何考えてんのか大体想像つく気…。(><;)」
「正気に戻るまでしばらくかかるング…。」
「あ、録さん白さん、こんちわっす!」
天国は固まった御柳をよそに朱牡丹と久ボウにも挨拶をしに行った。
この二人も天国とはかなりの仲良しである。
「あ〜猿クン、前のメール届いた気〜?(^▽^)/」
「はい!いや〜助かりましたよ。貴重な情報ありがとさんです!」
「あの情報源は俺ングよ…猿野。」
「あ、そうなんすか?!白さんホントありがとうございます!」
和気あいあいと語り合う朱牡丹たち。
そこに再度屑桐も話しかける。
「それより、例の件は決まったのか?」
「あ、何とか…。」
「そうか。随分迷っていたようだが決心はついたのか。」
「はい…。」
天国ははにかんだように微笑んだ。
それは御柳もめったに見れないほど可愛くて。
そんな可愛い顔を人に見せて。
自分には分からない話を他の奴として。
知らない間に、自分以外の奴とデート…。
御柳にとっては現実逃避したいくらいの状況だったが。
そんなことするほど、御柳は弱くも可愛くもなかった。
「天国!!」
御柳は、ほとんど鬼の形相で恋人を呼んだ。
「な…何だよ、泣く子もだまって昇天しそうな顔…。」
「いいから顔貸せ。話があんだよ。」
天国の反論を途中で封じると、御柳は天国の腕をつかんだ。
力自慢の天国でも、とっさには振り払えないような力で。
「ちょ…御柳…っ!!」
そのまま、無言で恋人を連れ去った。
置き去られた華武高野球部員たちは、天国が連れ去られた方向をしばらく眺めた。
そして。
「あーあ、やりすぎングよ、屑さん。」
「ふん。」
「ちょっとヤバ気じゃないか?ミヤの奴猿クン犯しかねない顔してた気。(・O・;)」
「そこまで話が聞けない奴でもなかろう。
それだけ猿野のことを大切に思っているのだし、本気なのだからな。」
屑桐はそう言いながら。
声色に切なさが混じっているのを自覚していた。
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御柳は天国を適当な校舎裏に連れ込むと。
校舎の壁に天国を押し付け、両腕で退路を絶った。
その顔は、今だ鬼の形相である。
しかし、天国にとっては御柳の行動派理不尽そのものである。
ひるんでいる場合ではなかった。
「てめえ、何すんだいきなり!!」
だが、低く冷ややかな声が返る。
「何するんだはこっちの台詞だっつーの。
お前、オレと付き合ってんのに屑桐サンとデートってのはどういうわけ?
しかもオレの目の前で待ち合わせって、いい度胸してんじゃん?」
「はあ?!デートって…何言って…。」
天国は何のことだか心から分からないといった表情を返した。
だが、御柳にはしらばっくれているようにしか見えない。
「何、自覚もないっつーの?
それヒドくね?」
御柳の声が強くなっていく。
「オレはさ、お前にマジなわけよ。
なのに…お前は別の奴とへーきでデートしちゃうわけ?」
天国は驚いていた。
あの御柳が泣きそうな顔をしている。
御柳は天国にすがり付くように抱きついた。
「そんなんすげー腹立つし、さいきょーにヤだ。
なあ、なんで?オレのこと好きじゃねーのかよ…天国…!」
その言葉に、天国はやっと答えた。
「すげー好きだ。」
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「ふ〜ん、それで?」
「猿野に頼まれただけだ。御柳への誕生日プレゼント選びの手伝いをな。」
「…なんだ、そういうことだったんですか…。」
「そ、ついでにオレと白春はミヤの好みの店の情報を仕入れてただけ気。
あとは全部あいつの勘違い〜。<(^△^)>」
「ミヤは突っ走り過ぎングよ。」
グラウンドでは、残された部員達が事の次第を話していた。
真相は、なんてことはない。
屑桐たちは、御柳へのプレゼントを選ぶ天国に協力していただけだったのだ。
聞いていた帥仙や墨蓮たち2軍や菊尼たち1軍はあからさまに呆れていた。
「結局、痴話ゲンカに巻き込まれていただけじゃないですか…。」
「だな…なんであんな怖い思いしたんだろ…俺…。」
独民もため息をついた。
まあ彼の場合噂をばら撒いたので自業自得ではあったが。
「それにしても屑桐、随分余裕だな。」
「何がだ?」
「同感だ、猿野のためとはいえ御柳のプレゼント選びに協力とはな。」
菊尼の言葉に、帥仙も同調した。
だが屑桐は苦笑して、言った。
「逆だ。御柳のプレゼント選びでも猿野に会いたかった…というところだな。」
その言葉に、二人は少し驚いて。
「…ふうん?」
「お前も一途なことだな。」
生真面目な同級生に軽く微笑んだ。
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「…オレのプレゼントって…。」
「せっかく買った奴これでいいかなって屑桐さんたちに最終チェック頼んでたんだよ。
…人の話は最後まで聞けっつの…。」
結局すべて自分の勘違い。
流石に御柳は恥ずかしくなったらしく、少しうつむいた。
「……悪ぃ…。」
「反省したか?」
「…ハイ、スミマセンデシタ。」
「もう棒読みかい!!」
「愛してるぜ。」
「…!!知るか!!!」
最高の笑顔で愛の告白。
不意打ちだったのでどうやら天国にはかなり効いたようだ。
御柳は、憂鬱な気分が一掃されていくのを感じた。
迷惑な恋する男は、今日も幸せだった。
後日。
誕生日プレゼントを贈られた御柳は、迷惑料として一発ずつお見舞いされたらしい。
end
但馬クビリさま、大変遅くなり申し訳ありませんでした!これで完結です。
タイトルとあまり関係なくなってしまいましたが、
本来ならパニくる芭唐が「これは夢だ〜〜!」みたいな雰囲気にしたかったのですが…。
なんだかうまくまとまらず、本当にすみません!!
しかも芭唐弱すぎですよね。完全に別人です。
長く長くまたせたあげくこんなのでほんとうにすみませんでした!!
精進します…。
ではでは、最後になりましたが素敵リクエストありがとうございました!!
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